ロボコン × 「アトム ザ・ビギニング」インタビュー(2) ~目覚めるロボット、一番の問題は「声」?~
アニメ「アトム ザ・ビギニング」(毎週土曜日夜11:00~ NHK総合テレビにて放送)のスタートに先がけて、監督の佐藤竜雄さんとシリーズ構成の藤咲淳一さんに、ロボットの未来、ロボコンの未来についてうかがいました。
今後のロボコンに期待することのお話から、A106や作品全体の根幹を語る熱いインタビューになりました。
──「アトム ザ・ビギニング(以下ATB)」に出ているロボットバトルみたいなものが世界的にも増えてきていますね。ほかにはロボットによる相撲など、国内でもロボットコンテストが増えてきていると思うんですけど、もしお二人がロボコンをドラマで描くとするとどんな描き方をされますか?
藤咲
昔、思ったのは、ロボコンがもうちょっと普通に広まって大人もできて、ってなるといいなあと。そこから始まって、「町工場主体のロボコン」ってあるのかな、って思ったことはありますね。そういう人達が作ったらどうなるんだろう、って。
──町工場の人たちが戦う。
藤咲
地域おこしじゃないですけど、そういうロボコンもあるのかなぁ、っていろいろ考えてたんですけど、なんかいまいち熱くならなかった。
ロケット作るのと一緒じゃん、って。
ロボットに変わっただけじゃ面白くないなって僕の中でやめたんですけど。
ロボコンってテーマにしちゃうと、ルールがテーマになっちゃうところがあって、そうじゃないところにおかないと多分、面白みないかなって思って。
結局、人間描くことは変わんないし、ロボット通じて人間描くってことは変わんないじゃないかな。
僕は、変わったことできないんで、そういうことしか考えられないんですけど、多分、佐藤監督は違うこと考えていると思います。
佐藤
すごい無茶振りですけど。(笑)
手書きのロボットアニメって形でロボコンを描こうとすると、結局どうしても人間を描くって方にいってしまう。
それだったらもう少しシミュレーションの面白さ、っていうところを活かして、ドラマ半分、ある種実演半分、みたいな形でドキュメンタリーではないんだけど、そういう形でなんか面白いものができないかなと思ってますけどね。
要するに、実際にロボットを作って競技に参加するというよりは、そのシミュレーションを寄せ集めて話を作る、みたいな。
──アイデアを寄せ集める?
佐藤
それプラス、ストーリーですね。
それはアニメのくくり、実写のくくりではなくなってしまうんで、一大特番みたいな形で。
藤咲
あれっすかね。「大科学実験」ロボット版みたいな。
佐藤
ああ、そうですね。で最後に、割と上位のロボットを実際に作る、みたいな。
それでどうなるんだろうね、っていう。
藤咲
データの結果、各パーツごとに分けたシミュレーションの結果が形になったらどうなる。
佐藤
高専に取材に行ったときに思ったのは、やっぱりそのクラブ内でプレゼンをして、勝ち残って、これをロボットにするっていうのがあった。だから、これをもうちょっと大掛かりにしたら、なんか出落ちみたいなものもあったりして、面白おかしくやれるんじゃないかって。
──アイデアのプレゼン対決が面白い。
佐藤
実物作るってなると結構大変で。いかにラフに作っても、結構大変そうだな、っていうのは見ていてわかったんで。
だったら、それをCGなりなんなりでシミュレーションしてみて、それでいかに面白いかと。
やってみたけど、これで勝って、じゃあ実際形にしてどうなるんだろうと。
そこも含めて、ちゃんとうまくいかないと面白くないんですけどね。
ダメじゃないか、って落ちだと、バラエティ番組みたいになっちゃうから
よろしくないんですけど。
だから問題はそれがホントに面白いかって言うと、わからないですけれども、ただ単純に、ロボット作るぜっていう形で一つの話をするよりは、そういうアイデア、いろんなアイデアが存在するんだよ、ってところを見せてあげた上で、これが先どうなるんだろうっていうところも含めてドラマにできると。
そうするとよほどすごいデザインとかアイデアを集めないといけないので、これはかなり難しいですね。
──それをプレゼンする人の個性も含めて。
藤咲
超会議みたいなネットで、みんなの意見集めてやればできるかもしれない。
無責任なアイデアが形になっていくっていう集合体みたいな。
佐藤
ういうオチにもなりそう。だから、毎回成功するわけではないという意味では、なかなか成立しづらい企画かもしれないですね。
──ロボコン生みの親である東京工業大学名誉教授・森政弘先生は、「不気味の谷」現象について世界に先駆けて提唱したことで知られています。お二人は、今のロボットに足りないものは何だと思いますか?
佐藤
結局、現行のって言うと変ですけど、生物的な動きを参考にしているっていうところの寄せ集めが、気持ち悪いんだろうなって気がします。
要するに、犬なら犬、鳥なら鳥の動きがあるんだけど、それが入り混じっているって、なんだか変だな、みたいな。
動きは滑らかなんだけど怖いよ、っていう。
今そういう、四足歩行のロボットとか、二足歩行のロボットとかありますけど、それとはまた別に、愛玩系?というか、わりとおもちゃ系ですよね。 あの動物でもないし、ペットと言うには、なんかちょっと異様な、異様な形というよりは可愛い形。
それに即した動きって結構あったりするから、そういう実物から離れたような、動きであったり、デザインであったりというところが、割りと、突破口になるのかなっていう。
──生物の正確なシミュレーションではなくて。
佐藤
今でも人間に近づけていくっていう形であったり、動きであったり。おそらくその果てに、ここ端折っちゃえばいいじゃないの、っていう発想が出てくると思うんですよね。
やっぱり僕らも、あのアニメーションもリアルな動きってのを考えた上で、デフォルメした動き、このほうがカッコイイじゃん、みたいな。かわいいじゃんってなっていったんです。
おそらく、そういうデザイナー的発想というのが、この先、どんどん必要になっていくのかな。というか、そのへんに目をつけたら勝てるんじゃないですかね(笑)。
藤咲
すごいな。
──日本が強そうな分野のように聞こえます。
佐藤
意外と、日本はロボットの方はまだリアルな方に行っているように思います。
むしろ、あんまりその辺考えてないんでしょうね。やっぱり、アトムのイメージが強いんで。
アトムはアニメだけど、ちゃんと見たり聞いたり考えたりと、人間をきちんとトレースしたものや、それ以上のものを目指して描かれていたから、あのへんが好きな人たちは、ああいうものを作ろうとする。だから、どんどん人間に近づけていこうって、思ってるんだと思うんです
だけど、ここから先はむしろ離れて、また別個なものとして、人間に近いものっていうのを考えたほうが、おそらくいいんじゃないかと。
──アニメーションのみなさんがたどってきた道を、ロボット製作者がたどる?
佐藤
より合理的なというか、効率的なものを考えていくと、どうしても動きにデフォルメが入っていったりとか、その効率化が逆に、なにか可愛らしさとか、面白さを生むんじゃないかなと。
藤咲
特徴的になればね、そこが今度デザインになるから。
急にロボットがジャンプした時、手首がこういう風にカクンと曲げちゃったりするとね(笑)。
そこまで行くと味わいになるからいいかなと思って。
「不気味の谷」って考えた時、この間身近な人が亡くなって、その人の死に顔見たときに、あ、「不気味の谷」ってこういうことか、ってちょっと思ったんですね。
ああ、動かないんだ、って。 時が止まった瞬間それなのか、って思ったんですよ。
人間って生きているから、常に歪んでいるし、歪みが常にある状態でいるから、それが一種の人間らしさだった。眼球だってずっと同じ形でいないので、そういうの含めて、歪みっていうのが1個、人間らしさっていうか、多分、動いているってとこのすり替わりになるんで。
昔、ゲーム作っているときに、いかにゲームのキャラを人間っぽくするか、ってときに、「常にゆらゆらさせてるだけ」というのが1つ技術としてあったんですよ。 そうするとなんとなく、常に同じ場所にいないから、生きてる感じがするっていう。割とそういうのが1つの突破口なのかなって思ったりして。
意外と貧乏ゆすりだけしているマネキンって、もしかすると、突破できているかもしれないって、死生観っていうか、死んでるみたいなところが、なくなった瞬間に、さっき言った動きとか、動きをデザインすることを含めて、1つの生きてる形を作れるのかなって思ったり。
だからこそ、もう1つ、ロボットが「死ぬ」ってことを認識したらどうなんだろうってずっと考えてますけどね。
この間、犬のロボットさんが一斉にメンテナンス対応を止めたじゃないですか。
あのときに、彼らロボットは何を思うんだろうって、何を思ったんだろうって、ちょっと思っちゃんたんですよね。
もし、そういうの宿っているとしたらですけど。
日本の考えだと、なんでも魂が宿るじゃないですか。 器に。
──あの後、犬ロボットのお葬式を出す様子が、NHKでも放送されていました。
藤咲
子どもの頃大事にしていたぬいぐるみって、絶対何か宿ってるじゃないですか、その人にとっては。
その思い込みってのが、勝手に「不気味の谷」を作り出す瞬間なのかな、って思ったんですよね。 人間の認識の中で、勝手に自分がそれを1つの人間として認めてしまおうという。
藤咲
人間が本能で持って認知する機能ってのが、もしかするとそれを産んじゃってるのかなって。
だからロボットじゃない形、ああ、人間じゃない形のロボットって、すごい受け入れられやすい。
だから、さっきのデフォルメされたペットとかだと、たぶん、あ、ロボットだ!かわいい!ってなるんですけど、これがリアルなおじいちゃんだったら、かわいいって誰も言えないじゃないですか。
赤ちゃんロボット、人形だって、リアルなやつあるじゃないですか。 あれ怖いですよ、すごく。 だから、そういうところかなって思うんです。
──ロボットが死をどう思うのかを、「ATB」ではどう描かれているのですか。
藤咲
監督と一貫して、この「ATB」のアニメを作るときに、A106が何を得るかっていうのをシリーズの中で、描いていこうって決めて。それが、キーワードは、「自我」だったんですけど。
「自我」ってなんだろうってところから入ってんです。
だから、カサハラさん書かれている漫画以上に、A106の扱いがスゴくデリケートになったっていうのがありますね。
彼が何を思うのか。「彼」って言っちゃうと人間っぽいですけど、A106が何を思うのかっていう部分を、僕らが扱うときにスゴく、気を付けなきゃいけないと思ったんです。
そうしないと多分、伝わらないこれは、っていうのがあったんで、最初っから気を使ったところがあります。
それがなきゃスゴく楽だったんですけど、ホントに(笑)。
佐藤
得ていく過程を、さり気なく入れていくためにはどうしたらいいのかな、と。
それは当然、脚本でも考えるだろうし、考えてくれました。
でも、一番の問題は「声」ですね。
藤咲
うん。
佐藤
要するに、何も得ていない状態から得ていくA106っていう、このキャラクターですね、ロボットと言うよりは。どのような形で、自分を表現していくのかっていうところが、やっぱ声にかかってるんで、って。ま、彼はここにいませんけど。(注:A106役を担当する声優・井上雄貴さん)
藤咲
(笑)
佐藤
井上くんに、その、重い、えーっと、ね、
重いものを背負わせてしまってますけどもという。
藤咲
悩むだろうね、多分……。
彼自身が目覚めるかもしれない。
佐藤
ああ。
藤咲
僕らでも答え出ないかもしれないけれど。(笑)
佐藤
(笑)
藤咲
ただあの、ホントにその、このお話は、第1話でいきなり、
「やぁ、僕、A106」って登場したら、台無しになる話なんで(笑)。
佐藤
(爆)
藤咲
それをどうやってやめるか、っていうところ、周りにどうやってやめるか、説得するところから始まったってのはあります。
みんなが、あの「鉄腕アトム」ができる前の話だよね。っていう、すごいこと言ってくるんですけど、僕は、「A106がA106になる話」だと思って書いたから。原作から読み取って。
あとその、手塚さんとか、いろんな人の話を聞いて、結局思ったのはそこだったんで。そこにそのロボコンと同じように、ロボット作りってものと、自分のやりたいことに情熱燃やしてる、あの2人が、頑張ってるっていうのを、どう描くか、っていう。
だから結局、彼らのキャラクターの確立の話なのかな、ていう感じがスゴくなったんですよね。
──「ATB」の核心に迫る、深いところまでありがとうございます。
最後にロボコンをやっている学生や、目指している学生の皆さんへメッセージを。
佐藤
えっと、いろいろ面白いことは待っていると思いますので、勇気を持って、どんなに人に笑われようとも、あるいは、いろいろツッコミを入れられようとも、俺はこれが絶対面白いんだってものを作ってください。頑張って。
藤咲
固いなぁ。(笑)
佐藤
(爆)
藤咲
俺、どうしようかな。
佐藤
最初に振られたら固いこと言うでしょ。
藤咲
ものづくりって、結局諦めないってことがいちばん大事なんですよね。へこたれないっていうか。自分がやりたいことっていうのは、多分、自分が経験してきたことの中に絶対あるんで、それを見失わないでほしいなと思います。それあきらめなければ、絶対、形になります。がんばってください。
A106はどのように自我に目覚めるのか?A106役の井上雄貴さんも目覚めてしまうのか?
今後の展開を楽しみに、アニメ「アトムザ・ビギニング」、毎週土曜夜11:00からの放送をぜひご覧ください!
TVアニメ「アトム ザ・ビギニング」公式サイト
http://atom-tb.com/