「ひさけん」 ロボコン物語(2)~試行錯誤編〜 — 久野顕司
3年生になると設計をがっつりまかされたんです・・・が、すごいダメダメでした。
はじめてメインの設計を担当したんですけど、アイデアは絞りきれず、設計はセンスが感じられないし、結果も出せなくて。やっている途中から薄々これはまずいかもしれない・・・と思うんですが、地区大会で結果がつきつけられるとキツいですね。これはただいるだけじゃダメだと思って、
うーん、言葉にしづらいですが、 たぶんモノはできるんです。出来の良し悪しは別として。けどそれじゃダメなんですよね。「設計者を任せられたから先輩と一緒にそれなりに・・・」と設計していると 本当に ”それなりのモノ”しかできない。気持ちの入れ方が大事で、漠然と「なんとかなるだろう」と思っているとダメだと思ったんです。
そこからロボコンに対して思い入れがぐっとあがって、 自分から色々調べて、いろんなものを見て、知識を得て、いろんなアイデアの引き出しを作るっていう感じですかね、そういうのが必要だと感じました。
一番参考になるのは他の機体を見ることだと思います。他の高専のロボットを色々見ていきました。写真を撮ってそれを見ながら、どういう仕組みで動いているのか、どういうところがすごいのか、観察しながらアイデアを貯めていったんです。大会が終わってから次の年のルールが発表されるまでの オフシーズンでは写真を見ながら試作もしました。ただまったく同じものを作るのもつまらないですし、そもそも完成しているマシンは全て考え尽くして出来上がっているものなので、真似をしても劣化コピーにしかならないんです。だから試作のときは自分なりのアレンジや改良・改造を加えていました。
完璧に完成させるわけじゃないですけど、実際に手を動かしてやってみるというのは大事で。作ってみると、ここはいい、ここはダメ、というのが見えてくる。完成はしなくても得るものはあるので、やっぱり作ってなんぼです。
北九州はみんなでやって、発表会みたいなものもあったのでそういう場で見せることもします。名工大はほんとうに一人で黙々とやるんです(笑)あとあと話しますが名工と北九州ってスタンスがまったく違って面白かったですよ。
マシンの面ではそれまで自分の世代が作っていた「頑丈すぎるマシン」を見直すことにしました。強度が必要なところは太くして、そんなに必要のないところは細くしたり、適材適所でものを使おうと。
ルールで重さの制限があるのに、必要のないところまで頑丈にしてしまうとその強度でよかったのに、頑丈にしすぎたことでその分重くなり、その重さを支えるのに強度が足りなくなって、またそこを補強して、また重量が増えて・・・という悪循環に入るんです。永遠にゴツくなり、重くなっていく(笑)3年生のときはそれに気づけなかったんですよね。
それから4年のチームでいちばんよかったのは、分業がうまくできたことです。「VIGO」というマシンなんですがボールを取り込むところ、発射機構までボールを運ぶところ、発射機構、歩行全般 と役割を細かく分けたんですけど、それぞれのメンバーが自分の役割を果たしてそれをちゃんと組み合わせることができたんですよね。
大まかな形をCADで設計して、あとは現場合わせ、というやり方をとりました。
どっちをどっちに合わせるのか、何を優先するのか、というのを 先にしっかり話し合っておくのが大事です。そこさえ決めておけば、その先は幅を持たせていてもよくて。ただそこを詰めておかないと後々混乱します。現場合わせというのは、あくまで決めておいた中での現場合わせ、なので。
北九州はとにかくひたすら話し合います。ピットやチームメンバーを決めるときも、出たい人がたくさんいるので、だいたい丸2日間ぐらい、全員作業をやめて話し合い続ける。
客観的に他の人から見てその人の活動がどうだったかとか、彼はこういう感じでピットに向いてる・・・とか。時に怒号が飛び交ったりすることもあって、特に、手を挙げるべき人が遠慮して挙げなかった場合には感情的になりますね。「おまえは絶対に入らなきゃいけない人間だろ、なのになんで手をあげないんだ!」とか。逆の場合は「おまえは今まで遅刻を何回してきたのか?」と静かに問いかけたり(笑)。
最後の枠に入れる1人を決めるときなんかは大変で、本人の意見や他のメンバーの推薦意見を、作業スペースでずっとずっと話し合って、それでも決まらなければ、最終的に候補の2人が作業スペースの向かいの図書館で再度話しあうという(笑)エントリー前にやるんですが、すごく時間を要しますね。
カリスマ性のあるリーダーがいるところはいいですが。大概の場合、学生なので割り切れる人はそんなにいないと思います。なので皆で話し合って、全員が納得することはできなくとも、おおかたが納得することが必要です。いいロボットを作るポイントには、「連携」や「結束力」も大事な要素なので、やっぱり頑張ってきた人は認め合いたいですし、多少図々しくともすごく能力のある人もいますし。チーム内で個人間の仲がよくないということも当然ありますが、それでもみんなが同じ方向を見て、全員が勝ちに対して真摯になることが大事です。ばらばらのことを考えていてもしょうがないので。4年生のときは優勝こそできませんでしたが、チームの結束力は強かったし、悔いはないですね。
ここまでやったなら集大成として5年を終わらせよう、と意気込んで。この年も分業をちゃんとして、練習は500回とかつてないぐらいやって。1回戦、2回戦、決勝と対戦チームと相手が出してきそうなタイムを想定して大会シミュレーションもして。・・・まあそうやってシミュレーションしていたら熊本の八代高専が30秒切ってきたわけですが。
ある意味ライブストリーミングの弊害といいますか・・・。練習で40秒を切っていたところに、他の地区のタイムが1分切るか切らないか、という様子をストリーミングで見て、自分たちのタイムをあげるのをやめてしまったんですよね、安心して。それが敗因でした。
表彰式で全国推薦のときに北九州の名前が呼ばれなかった瞬間に、その次がなくなるわけですよね。何があってもあのとき八代には勝てなかったので。多少あきらめはつくといえばつくんですが、 帰りのバスの中でもっと改善していれば、もっと足を速くしていれば・・・とか、地区が違えば・・・とか色々思い返したりして。それで高専に着いて「あ、本当に終わったんだな」って、だんだん終わったことを実感していくんです。悲しいとかではなく、虚無感です。ぽっかり穴が空く感じ。終わると思っていなかったものが急に終わったので。もうどうすりゃいいんだと。悔しくて悔しくて達成感なんか一つもなかったので、これはもう大学でやるしかないだろうと。多分この年に全国ベスト4とかになっていたら大学ロボコンはやらなかったと思います(笑)